コロナで森に還れない、孤児のオランウータンを支援

コロナで森に還れない、孤児のオランウータンを支援

ジェラパットくんというあるオランウータンの物語

初めまして、ライターの白木賀南子です。私は大学生の時にボルネオ島に旅行に行き、初めて保護されているオランウータンに会った。かわいいな~くらいにしか思っていなかった私だが、まさか十数年の時を経て今こうしてオランウータンのプロジェクトに関わることになるとは夢にも思わなかった。オランウータンのママはすごい!オランウータンは人間に最も近い動物ではないだろうか。なんと、オランウータンと人間のDNAは約97%が一致しているそうだ!残りの3%でこうも見た目が違うのかと思うが、その数値からしてもほぼ人間だ。出産の際には、1回で1頭しか産まず、母親はつきっきりで6-7年間子育てをする(父親は子育てしないらしいので、育メンは一切いないそうだ!)。人間でいえば小学生まで母親1人で面倒を見るのだから、私だったら無理だ。オランウータンママを尊敬する。私にも3歳になる息子がいるが、保育園や祖父母の助けを借りてやっと子育てできている状況だ。オランウータンママは本当に偉い。(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)彼らの眼差しやふるまいはどことなく人間と似ていて、愛嬌がある。ジーっと見つめられると、なんだか「悟りを開いた仙人と向き合っているようなそんな不思議な気持ちにさせてくれる子もいる」と、お話しを伺ったmore trees事務局長の水谷さんは言う。オランウータンはインドネシアとマレーシアの豊かな熱帯林にだけ生息している。その名は、インドネシア語で「森の人」という意味。そんな、オランウータンたちは気候変動により森林火災やパームヤシを育てるプランテーション開拓のための森林伐採によって絶滅の危機に瀕している。「森の人」がいなくなった森はどうなるのだろうか?そして、親を亡くしたオランウータンの子どもたちがたくさんいるのだそうだ。ある子は、ペット目的で誘拐されて母親と離れ離れになった。ある子は、密猟者に母親を殺された。ある子は、森林火災で母親とはぐれた。お腹を痛めて産んだ子どもを育てられなかった母親、大好きなママと離れ離れになってしまった子の気持ちを考えると、ただただ泣けてくる。そして、それがほとんど人間の手によって起きているという現状に、私はなおさら心が痛い・・・そんなオランウータンの孤児たちを保護し、森に還す活動をしているリハビリセンターがある。人の手によって悲しい状況に置かれたオランウータンたちを救っているのもまた人なのだと思うと少し救われる。今回は、保護されたオランウータンたちが無事に森に還ることができるよう、DNAは近いけど、ちょっと遠い国にいる皆さんにオランウータンたちのストーリーを届けたいと思う。そして、少しでも何か感じてくださったのならば、more treesが立ち上げたクラウドファンディングにぜひ里親として参加し、支援をしてほしい。かわいそうだから支援するのでなく、オランウータンのことを知り、もっと身近に感じてもらうことで、森林の豊かさを守ること、気候変動や環境問題に向き合うこと、自然界と人間界がどう共存共栄していくかを考えるきっかけになればいいなと思う。子を持つ1人の母親として、私の子どもたちが生きる未来の地球を守るアクションにつながればとても嬉しい。野生のオランウータン親子の生活オランウータンは人間と同じように1回の出産で1頭しか生まないし、母親が独り立ちするまで育児を平均6~7年するのが当たり前だ。その間に、木の登り方、ベッドの作り方(なんと毎晩寝床を変えてその都度葉っぱや枝でお手製のベッドを作っているのだ!)、餌の取り方などを母親がみっちりと教える。なんと丁寧な子育てなんだ。本当に尊敬する。主食として、フルーツや木の実を食べる。ドリアン、ランブータン、イチジクなど栄養価が高いフルーツが多いが、フルーツによっては数年に1度しか実を付けない木もあるそう。猿=バナナと思うかもしれないが、野生のバナナは少ないのだとか。そのため、昆虫も食べる。どの昆虫がおいしい!とか、この昆虫は毒だ!とかきっとそんなことも教えているのかもしれない。生活に必要な知識はすべてお母さんから教わるのだ。オランウータンは他のサルのような大きな鳴き声やゴリラのようなドラミングなどはしない。とても落ち着いていて、成人はちょっといかついけど基本的に温厚でおっとりした性格だ。母親に育児疲れとかはないのだろうか(笑)きっと、ない・・・のだろう。そこはとても羨ましい。ペットやサーカス目的の密猟で親子が離れ離れにそんな仲良しオランウータン親子を引き裂く悲しい事件が相次いでいる。気候変動による森林火災や、人為的な森林伐採によって親子離れ離れになってしまう場合もあるが、最も多い原因はペット目的、サーカス目的のための密猟だ。オランウータンの赤ちゃんは確かにかわいい。すごくかわいい。でも、もちろん売り買いはご法度。密猟増加の原因は、オランウータンの闇価格にあるようだ。地元(カリマンタン):15~100ドルジャワ島:1,000~2,000ドル国外:40,000~45,000ドル国外で売ると地元の100倍ないしは1000倍近い値段が付く。450万円ともなれば、地元の人々にとって喉から手が出るほどの大金だ。はるか遠くの国の空港で保護されたオランウータンの赤ちゃんが何頭もいるそうだ。地元の東カリマンタン州では、森林を伐採したパーム農園の開発に伴って人間の生活域とオラウータンの生活域が近くなったことからペットとして飼われる場合が多い。赤ちゃんを見つけて捕まえ、鎖でつないでいるだけで、餌もろくに与えずガリガリになっている状況で保護された子もいた。インドネシアにある「サンボジャ レスタリ」というリハビリセンターでは、2020年には2歳以下のオラウータンの子が2頭運び込まれている。99%はペット目的の密猟から保護された子たちだ。あるオランウータンの物語(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)ここで1頭のオランウータンの物語をご紹介したい。名前はジェラパットくん、保護された当時は1歳半。このストーリーを読んでくれている皆さんには、ぜひこのジェラパットくんの成長を一緒に見守ってほしいと思っている。彼は、2016年6月21日、カリマンタン州の中部にある村で保護された。その地は森林火災の被害を受けており、何日も深い霧に包まれていた。母親は恐らく火事で亡くなったか殺されてしまったのか。オランウータンの母親はこんな小さな子を置き去りにすることは決してない。BOS財団がジェラパットくんの存在を知ったのは、Facebookの投稿だった。彼は村人によって洋服を着せられて檻の中で飼われていた。すぐに報告を上げ、救助に向かった。長く囚われていたので人間慣れしていて人懐っこかった。しかし餌はあまり与えられていなかったようでやせ細っていた。リハビリセンターに来てから4年。すっかり大きくなって現在は5歳半になった。毎日元気に「森の学校」に通っている。センターには「幼稚園、森の学校1年生、森の学校2年生」の3学年が存在している。(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)0~3歳の子たちは幼稚園に通う。保護された子たちは、トラウマを抱えている子が多いので、ここでスタッフとの信頼関係や安心感を得るために慎重にケアをしている。新しい環境で遊び、ミルク以外にもフルーツを初めて口にしたりする。3~5歳になると、1年生に進級。人間の小学校と同じような形で、森での生活スキルを学ぶ。木登りの仕方、お家の作り方、餌の採り方。朝7:30に始業、15:30まで学校に通ったら夜は葉っぱをたっぷりと敷いたベッドのあるケージで眠る。18:00には夕食、翌朝6:00に朝食という形で毎日のルーティーンになっている。5歳以上は、2年生(人間だと小学校高学年)この学年になるといよいよ森での生活を試していく時期になる。ただ念のため、ケージと医療体制は整えてある。森でどう動くか、天敵に会ったらどう対処するか、スタッフから離れて自立した生活を送れるよう訓練していく。卒業間近になった子たちは、「プレリリースアイランド」という島で生活する。いわば最後の卒業試験を行う場所のようなイメージだ。ここでは、もう自然界と同じ。スタッフは卒業できるかどうかをここでの生活を見て判断する。この島でも食事は提供される。朝8:00と18:00には食事を、11:00と14:00にはおやつだ。ジェラパットくんは、ちょうど幼稚園を卒業し新しい一歩を踏み出す時期。ここから一人前になるまでセンターのスタッフと一緒にいっぱい勉強して、将来森に還る日を夢見ているに違いない。リハビリセンターに保護された後の暮らしインドネシアのサンボジャにあるリハビリセンターには常時120頭のオランウータンがいる。BOS財団はもう1か所活動拠点があり、計2か所を合わせると全部で400頭のオランウータンが保護されている状況だ。リハビリセンターでの一頭当たりの食事回数は1日に4~5回。1日1.2kgの餌を食べている。主食はフルーツだが、バナナを与えすぎると糖尿病になるリスクがあるので、空心菜の葉っぱやトマトも与えている。栄養価の高いオートミールを竹筒につめてあげる場合もある。人間と同じで食事のバランスが大事だ!(© 2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)気になるのが、餌代だ。400頭合わせたら、1日に480キロものフルーツや野菜が必要。1か月で、5,760キロ。なんと、1頭を1か月養うのに2.5万円もかかるそうだ!400頭いるとなると、1,000万円。かなりの金額になる。リハビリセンターでは母親の代わりに自然界で生きていけるすべてを教えるので、保護されてからセンターで過ごす年数はけっこう長い。保護された年齢や習熟度には個体差があるが、6-7年、長いと15年かかる場合もあるそうだ。オランウータンを保護し、ケアし、森に還した実績としては過去5年間で287頭に上る。人馴れしすぎてしまうと復帰できない。また、人間と同じ病気にかかる場合もあり、そういった病原菌を森に持ち込ませないためにも、その子たちはリハビリセンターで生涯を終えることになるのだ。リハビリセンターでは昼夜三交代、24時間体制でスタッフがオランウータンたちの面倒を見ている。ベビーシッターや先生、メンテナンス係、獣医さん、パトロールや保護活動、寄付活動など多くの人々が関わって、みんなで協力してオランウータンを見守っているのだ。そして、リハビリセンターでは人馴れさせない工夫を徹底している。視察で訪れた人は一切オランウータンに触れることは許されない。一般のビジターは保護区の内部に入ることはできず、オランウータンを見るのは5-6m離れた水路越しだったりもする。あくまで自然界に還すこと、リハビリセンターを卒業してもらうことを目指しているので、オランウータンを観光客が喜ぶような見世物にしたりはしないのだ。スタッフの人たちは毎日ケアしていたらものすごく愛着がわいてしまうので、森に還したくなくなるのでは?と思ってしまった。私も子どもの面倒を見ていると、できれば毎日一緒にいたいと思ってしまう。卒業する子たちに対して、何か卒業式とかはするのだろうか?そんな質問をしてみたところ、答えは意外とドライだった(笑)(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)卒業式というものは特になく、一頭一頭を檻に入れて森に運び、そこで檻を開けて還す。その瞬間は意外と淡泊なのだそうだ。抱き合うでもなく、すっと森に送り出す。リハビリセンターの人たちはわかっているのだ。オランウータンたちが豊な森で暮らせることが一番の幸せだということを。そこに人間のエゴは一切いらないのだ。ただ、卒業後もGPSで行動をモニタリングしている。電池の寿命は3年。その間に何もなければ正式にリハビリセンター卒業!保護してからモニタリング終了までと考えると長い場合は18年になる・・・わが子が18歳になるなんて、本当に人間の子育てと期間が変わらないなと思った。人間の子育てときっとそう変わらないオランウータンの子育て。実際に彼らの親として過ごすスタッフの人たちは、いったいどんな想いを持っているのだろう?気になってやりがいを聞いてみたところ、一生物への尊敬の念と、子どもに対する愛情が伝わってくるような答えが返ってきた。――オランウータンはとても賢く、感情豊かで共感力も人間と同じです。人間と本当に同じ。ただ言葉を話せないだけ。だから時々その賢さにすごく驚かされます。言葉を発さずに、自分の感情をこちらに伝達してくるんです。時々こちらを操ろうとしているのがわかるので、けっこうチャレンジですね。(BOS財団 サンボジャレスタリのプログラムマネージャー兼獣医Dr. Agus Irwantoさんの声)プロジェクト発起人の思い今回のオランウータン支援は一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)の水谷さんと嶋本さんが発起人だ。more treesは、音楽家の坂本龍一さんが代表を務める森林保全団体で2007年に設立された。「都市と森をつなぐ」をキーワードに「森と人がずっとともに生きる社会」を目指したさまざまな取り組みを行っている。more treesとオランウータンの歴史は2007年以前に遡る。more trees事務局長の水谷さんは当時インドネシアの東カリマンタン州の森林再生を担うNPO法人に勤めていた。熱帯雨林の再生活動の中で、リハビリセンターを運営するBOS財団を通じてオランウータンの現状を知った。森林の再生とオランウータンの保護は実は切っても切れない関係にあったのだ。more treesに転籍後も、何か東カリマンタン島への恩返しがしたいと思っていた矢先、インドネシアで大森林火災があった。東京都12個分の森が燃え、BOS財団が運営するリハビリセンターの一部も燃えてしまった。なんとかしないといけない!と考え、数年越しで腰を上げて、水谷さんは当時のご縁をたどって、BOS財団にアプローチ。2016年にBOS財団とmore treesが協働で森林再生プロジェクトを行うこととなった。リハビリセンターでは、オランウータンを保護した後、豊かな森に還すことを目的として活動しているので、卒業準備ができた子は順次森に還される。しかし、コロナウイルスの影響はオランウータンたちにも及んでいる。施設では、消毒を徹底し、オランウータンに接する人間の数もこれまでよりも絞って運営している。施設内の検温、検査も毎日実施している。2020年3月を最後にオランウータンたちは森に還れなくなってしまった。人間と97%DNAが一致しているオランウータンにもコロナウイルスの感染の恐れがある。人間が媒介者になる可能性もあるため人間も森に入れないよう厳しく制限されている。幸い、現時点でウイルスに感染した関係者やオランウータンはいないが、今後も状況が続く見込みで、先が見えない。これまでリハビリセンターは海外からの寄付で成り立っていた。しかし、コロナ禍でどこも厳しい状況だからか寄付が少なくなっており、オランウータンの餌代やスタッフの維持が難しく、苦しい状況になっている。リハビリセンターを卒業する準備ができている子たちも還れない状況の中、リハビリセンターはひっ迫した状況だ。そこで、more treesではオランウータンのストーリーを伝え、ジェラパットくんの里親募集という形でこのリハビリセンターの支援金を募れないかと考えクラウドファンディングにチャレンジすることとなった。オランウータンが生み出す豊かな森と生物多様性(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)オランウータンはなぜ豊かな森に必要なのか?実は、オランウータンは種の散布者になるということが分かっている。オランウータンが果実や木の実の種を食べながら、2kmほど移動することで、種が森中に広がるのだ。これにより、オランウータンの下位の生態系の傘がどんどん広がり、豊かな森が出来上がっていくわけだ。また、日の光を森に届けているのもオランウータンと言えるのかもしれない。寝床を作る時にキャノピー(樹冠)の葉っぱや枝を使っているので、キャノピーが切り開かれる。開いた樹冠から光が入る!寝床を作ること=森の代謝を促す行為になるので、彼らの行動が森の循環の一つになっているのだ。もしオランウータンが絶滅してしまったら、森は暗く生い茂り、多様な生態系は損なわれてしまう可能性があるのだ。更に、人間にも直接の恩恵があったりする。オランウータンには独自の病気はないことがわかっている。彼らの食物を研究してみると、人間にとっても有効な薬草の発見につながったというケースもあるほどだ。例えば、「ウリン」という植物の若芽が下痢止めになることが発見されている。ある研究によると、オランウータン1~10頭が1㎢に生息する場合、そのエリアには少なくとも5種類のサイチョウ(大型の鳥)、50種の果樹、15種の植物を「招く」力があると言われている。そのため、オランウータンは「アンブレラ種」とも呼ばれる。生態系のトップに君臨する彼らが、下位にある動植物が多様性の「傘」を広げられるようにしているのだ。これらを見ても、オランウータンたちがどれだけ森、地球にとって大切な生き物なのか「森の人」と昔の人が名付けた意味もよくわかるというものだ。オランウータンは親善大使。森とオランウータンと人をつなぐエコツーリズム(©2020 Borneo Orangutan Survival Foundation)オランウータンは「絶滅危惧種」としてIUCN(国際自然保護連合)が作成するレッドリストに指定されており、年々数が減っている。理由は、密猟、焼畑による森林開発。人間の経済活動は森を減少させることで間接的にオランウータンの命を脅かし、直接的にもお金のために密猟や誘拐が行われているのが現実だ。オランウータンが減ったことで人類が困ることは正直そんなにないのかもしれない。ただ、オランウータンが住める状況=生物多様性の豊かな森林が保護されているということにつながる。それが地球環境保護の指標なのだと思う。彼らが絶滅したということは、多様な熱帯雨林が失われたことを意味する。大型台風、豪雨、渇水、森がなくなった結果、じわじわと気候変動への影響が及ぼされる。ボディーブローのように・・・人間にしっぺ返しがくる。オランウータンの生息する東カリマンタン州は天然資源が豊富で、第二次世界大戦前から石油も取れていた。それに加えて石炭や天然ガスが置き換わり、経済が好調だ。資源バブルでタワーマンションの建設なども進んでいる。現地の人々の経済成長とオランウータンの保護を両立するのはなかなか難しい。現地の人は、オランウータンの存在を知っているし、減っていることも認識はしているのだ。でも、開発の手を緩める選択肢はない。だからこそ“よそ者”である、more treesや民間企業が、客観的に地元の人に気づきを与えられると思っていると、水谷さんたちは語る。熱帯雨林の重要性をこの保護活動を通じて知ってもらいたいと思っている。BOS財団は、もともとオランウータンを救うために立ち上がった団体だった。しかし、2002~2012年の10年間は、オランウータンをリハビリしても森に還すことができなかった。なんと、当時はオランウータンが安心して過ごせる森がなかったのだ。どの森も常に人による森林開発のリスクがあり、オランウータンが永続的に暮らせるという保証がなかった。そこからBOS財団は、オランウータンが安心して暮らせる森を維持しなければいけない!と気づき、リハビリセンターと並行して森の保護活動も開始した。more treesとBOS財団は手を取り合って、オランウータンの保護と、森林の保全に取り組むことでサステナブルな活動を続けている。オランウータンはサステナビリティの親善大使と言えるのかもしれない。BOS財団は、地元の人や経済活動に対しても多くの機会提供をしている。その1つがエコツーリズムだ。(© 2020 more trees)ツーリストを受け入れる宿を運営し、オランウータンのリハビリ施設の見学や、リバークルーズ、熱帯雨林のトレッキングメニューなどを地域住民と連携して提供している。人気はなんといってもサンセットクルーズ!夕暮れ時にボートで川を巡るアクティビティだ。クルーズ中には多くの動物たちと出会うことができる。その1つがテングザル。以前は、テングザルに会うのはなかなか難しかったのが、今では確実に2-3組のテングザルの群れに会うことができるのだ!森林保全は、オランウータン以外の動植物の保全にも確実につながっていることがわかる。地元の人々にとっても多くの恩恵がある。BOS財団のエコツーリズムによって地元の雇用が生まれるのはもちろん、レクチャーを通じて、アドボカシー教育の機会を提供し、グリーンツーリズムの大切さを伝えている。今バブルとなっている天然資源は採掘しつくしたら終わってしまう。しかし、自然資本は維持していけば途絶えることはない。自然資本をベースにツーリズムを構築し、外国人観光客を誘致し、永続的に収益を上げられるのがグリーンツーリズムの魅力だ。それを地元の人々が理解してくれれば、経済と自然保護が両立する。そのことを、BOS財団もmore treesも伝えている。終わりに皆さんにとって身近な動物といえば何だろうか?恐らく、犬や猫だろう。私も実家で犬を飼っていたので、犬に関するニュースは身近に感じる。そして、どうしてもメディアを通じて注目される動物にまつわる社会問題は、犬や猫の殺処分問題だったりする。全世界の既知の生物総種数は約175万種で、このうち、哺乳類でも約6,000種と言われている。オランウータンの問題もあれば、アフリカゾウの問題、ジンベエザメの問題など様々な生物が絶滅の危機に瀕しているのだ。今回のプロジェクトでもっと世界の動物や植物にまで想いを馳せるきっかけになってくれたら嬉しいとmore treesの水谷さんは語る。なぜなら、こういった動物の生息地が奪われているのは、人間の経済活動が大きく影響しているからだ。人間がこれから日ごろの生活の中で何を選択していくのかが非常に重要となる。more treesは特に「都市と森をつなぐ」を掲げているので、この物語を元に自分たちの生活を少しでも見直すきっかけになってもらえたら嬉しい。オランウータンがいなくなることで、人間に今すぐに大きな影響があるわけではないかもしれない。その保護の重要性を実感することもまた難しい。彼らがどんな存在で、今の人間の豊かな生活がどう成り立っていて、自然界やインドネシアの森林や海にどんな影響を与えて、動物にどんな結果をもたらしているのか。すべてはつながっている。見えないし、実感もわかないかもしれないが、確実につながっているということを知ってほしい。オランウータンという“才能”を私の子供たちの時代にまで残し続けられるかどうかは、今私たちの手にかかっているのかもしれない。