全国の中高生と木の糸でできたハンカチを作って森林を守りたい
ポケットに森を!∼木糸ハンカチプロジェクト∼
森林の“今”を知っているだろうか世界の森林は今、この瞬間も減少を続けている。国際連合食糧農業機関(FAO)「世界森林資源評価2010」により、2000年から2010年までの10年間で年間1,300万ヘクタールもの森林が失われてしまったことが明らかになった。計算すると、世界全体での森林の純消失面積は年間520万ヘクタール。これは日本の国土の約14%にあたる面積だ。森林破壊は限られたエリアだけでなく、地球規模の問題である。近年森林が多く減少しているのは、ブラジル、インドネシア、そしてアフリカの熱帯諸国。原因は様々であり、非伝統的な焼畑農業の増加、土地利用の転換、燃料用木材の過剰な採取、違法伐採などが挙げられる。そもそも伝統的な焼畑農業は森林を伐採し、焼きはらって数年農地とした後は自然の力で森に戻すというものである。しかし近年このサイクルが短くされ、森が回復しないという状況に陥っている。また、森林を伐採して牧場などに転換したり、定められている伐採量を上回る伐採を行ったり、伐採権のない森林で伐採する違法伐採も森林を減少させる原因となっている。森林破壊によってどのような危機が起こってしまうのか。多くの生き物たちが住処を失い、人の暮らしも影響される。気候変動の脅威が拡大したり、感染症の新たな感染拡大の恐れもある。日本の森林の"今"を知っているだろうか現在、日本の森林の割合は国土の約7割を占め、先進国では世界有数の森林率を誇る森林大国といわれている。しかし、日本の木材の自給率は約3~4割程度。半世紀以上前に導入された木材の輸入自由化によって外国産材の供給に押され、国産材の自給率は決して高いとはいえない。日本の森林資源は有効利用されているとは言い難い状況だ。使われなかった日本の森林が森に放置された状態が多数見受けられるのが現状だが、この状態のままだと、豪雨などが起こった時に土砂崩れが起きやすくなったり、葉により陽が遮られ、地面に近い植物まで日光が届かなかったり、山火事が起きやすくなってしまったりと、たくさんの二次被害が起こりうる。また、地球温暖化にも悪影響である。森林が多くあることは一見地球温暖化の改善に繋がるように思うが、手入れがされないまま放置されて荒れてしまった木々はCO2の吸収能力が極めて低くなってしまっている。このように地球に負担をかけている状況や、自然災害による被害は、森林がしっかり管理されていれば、減らせたかもしれない。世界で見ると、森林は減少傾向にあり、大きな問題になっている。しかしその一方で、日本は多すぎる森林資源に問題を抱えている。つまり、世界とは真反対な問題が日本では起こっているのだ。ーー私たちは増えすぎた森林資源を活かさなければならない。私たちに何かできないだろうか…中高生による「木糸ハンカチを通じた森林保全プロジェクト」が始動そこで私たち、東京学芸大学附属国際中等教育学校ソーシャルアクションチーム(以後、SAT)では、一般社団法人more treesさんのご協力のもと、「ポケットに森を」というテーマで『木糸(もくいと)ハンカチプロジェクト』を企画することにした。「木糸ハンカチ」とは、日本の国産材から作った和紙からなる木の糸を布にしたもの。ほのかに木の香りがし、吸収性もよい。また色味も真っ白ではなくどことなく木のぬくもりを感じられる自然な色だ。プロジェクトでは、日本の森林資源の活用促進のために国産材から作られる木糸ハンカチのデザインを全国の中高生から募集し、制作することとした。「中高生がZ世代としての意識を持ち、環境問題を自分の暮らしとリンクさせ、ジブンゴトとして捉えられる世の中」を創りたい――デザインを全国の中高生から募集することで、よりジブンゴトとして捉えてもらえるのではないかと考えた。また、新型コロナウイルスが深刻化し、手洗いの機会が増え、これまでハンカチを持っていなかった人も今では必ず持ち歩くアイテムになっている。「森林 × 生活必需品」からの連想で、手軽に身に着けられるものとして、木糸ハンカチはまさにいまの時代にうってつけのものだ。初めの一歩、デザイン募集のためにポスター作りとウェブサイトを作成デザイン募集を実現するまでに、たくさんの試行錯誤を重ねた。ポスターとウェブサイトの作成に関わった部員の声を紹介したい。「中高生に手に取ってもらえるようなデザインを募集する中で、デザインを応募したくなるようなポスターの作成が最も大変だった。木糸ハンカチにより日本の森林を守ること、森林を身近に感じてもらうことが今回の目的だったため、そのメッセージがポスターから伝わるようにしなければならない。それに加えて、そもそも木糸ハンカチとは何なのかを知ってもらわなくてはならなかったため、良い広報となるポスターにするために何度も何度も修正を行った。どの情報をデザインコンテストの際に用いるか、どの情報は必要無いかを見極め整理するなかで、木糸ハンカチによる影響や私たちがプロジェクトを通じて実現したいことをより明確に理解し、森林と人とを繋ぎたいという想いを改めて感じることができたと思う。この想いが応募されるデザインにも込められたら素敵だと思いながらコンテストを進めることができ、とても良い経験となった。」「木糸ハンカチプロジェクトのデザインコンテスト用ウェブサイトの作成が一番大変だった。コンテスト用ウェブサイトを作ることが初めてだった上、何よりもウェブサイトにアクセスした人が、私が書いた説明だけでプロジェクト概要をしっかり理解できるかが不安だった。コンテスト用ポスターに載っている詳細はもちろん、ポスターに載っていないことまで書かなければならなかった。しかし、ウェブサイトの特徴上、アクセスした人が一目で理解できるような説明にしなければならない。説明する項目が多くなったからと言って情報量が多くなっては効果的な広報手段にならないことに気づいた。そこで、作成の一つの目安としてアクセスした人に、①木糸ハンカチプロジェクト全体について、そして②今回のデザインコンテストを開催することになった理由を「5分以内」に理解できるようなウェブサイトを作るために頑張った。改善を重ねるたび、このプロジェクトを知らない人に、私の説明で理解ができるか聞きに回った。最終的には満足するウェブサイトに仕上がったと感じている。」デザイン募集の準備を経て、必要な情報を的確に述べながら、中高生に私たちの想いを伝えることの難しさを知った。ポスター・ウェブサイトを見たときに1人でも多くの中高生が私たちの目標に共感し、デザインを応募することで森林保護の第一歩に参加してくれることを願う。選考したデザインをもとにハンカチを制作し、その後はワークショップやイベントなどを企画して、日本の森林の現状や森林保全の大切さについて伝えていく活動に繋げていく予定だ。【デザインコンテストへの応募方法】現在、デザイン案を募集中。以下のURLより詳細をご確認ください。https://tinyurl.com/y5wb5357募集期間:2021年1月18日(月)~2月19日(金)なぜ森林保全が必要?なぜ木糸ハンカチ?私たちの"原点"私たちSATは、中学1年生から高校3年生までの約40名からなる、10年の歴史を持つボランティア部。週に1回、放課後の部活動の時間に加えて、休日や夏休みなどでは地域のイベントのお手伝いや、地域のまちづくりを学ぶスタディツアー、主催イベントなどを行なっている。地域の魅力や課題を発見・発信・解決するjimoto プロジェクト、寄付のチカラを子どもや中高生に向けて発信するGiving プロジェクト、ケニアでの女子教育の普及を目標に資金調達を行うケニア学校建設プロジェクトなどと、国内から国際的な課題解決に取り組んできた。ホームページ:https://www.tguissvt.com/これまでの活動が評価され、2019年には「第23回ボランティアスピリットアワード」にて首都圏ブロック賞を受賞した。SATは、以前先輩たちの授業にゲスト講義でこられた一般社団法人more treesの事務局長水谷伸吉さまからのお声がけで2018と2019年に六本木のアークヒルズ行われた「木とあそぼう 森をかんがえようwith more trees」というイベントにスタッフボランティアとして参加させて頂いた。2018年1月、国際A「国際協力と社会貢献」にゲスト講師として来校した水谷さまそこから環境や日本の森林に関して興味と関心を抱いた私たちは、2020年6月に実施したSATの総会の際に、スキルアップセミナーとして水谷さまをお呼びして講義をして頂いた。そして6月には第1回目の勉強会を実施、勉強会後に「もっと詳しく日本の森林やmore treesについて知りたい」という声がメンバーから多く集まったため、8月には第2回目の勉強会を開催。2回の勉強会を通して、世界の森と日本の森の現状、森林とSDGsの関係、そしてmore treesの取り組みついて深く学ぶことができた。一般社団法人 more trees(モア・トゥリーズ)は、音楽家 坂本龍一氏が代表を務める森林 保全団体。地域と協働で森林保全を行う「more treesの森」の展開、国産材を活用した商品の企画・開発、イベントを通じた森の情報や魅力の発信など、「都市と森をつなぐ」を キーワードにさまざまな取り組みを行っている。森林問題について何から始めればいいかのキッカケを提供してくれる。そんな優しい団体だ。勉強会に参加後、多くの部員が森林に興味を持ち始めた。私たち中高生・Z世代にできることが多くあるのだとわかり、どのようにしたら森林の正しい現状を発信できるか、森林を保全することができるのかを考えたいと思った。「それまではてっきり日本の森林は、海外の多く森林と同じように減っていると思っていたため、日本の森林問題に驚いた。それと同時に環境保全に取り組む際に、まず現状について “知ること” がとても大事だと思った。」「もっと多くの年代、特に私たちと同じ中高生に森林のことについて知ってもらいたい!!」そんな熱い想いがこみ上げ、私たちSATは大きな一歩踏み出すことになる・・・キーワードは身近なウッドチェンジ(育てた木を大切に使うこと)、そしてグリーンコンシューマー(環境を大切にする消費者)日本ではまだまだ木を生活に取り入れ、森の手入れをする大切さが浸透していない状況にあるが、それをどう広めたらいいのか?健全な森林を維持するために必要なことの一つとして、森林が荒廃することのないよう、正しく森林を間引き、そこで発生した間伐材を活用することが挙げられる。では、その間伐材を何かいつでも手に取れるようなものに形を変えられれば、森林保全へ目を向けることが出来るのではないか。SAT内でも様々に議論を重ね、案として出たものこそが、「木糸」だった。木糸は、間伐材100%の和紙から作られる。和紙には約1400年の歴史があり、古い時代から現代まで廃れることなく、受け継がれてきた大切な伝統文化だ。そんな和紙を細長く切り、糸としてねじり併せることによって木糸は完成する。日本の歴史や文化が紡がれて、今の時代にふさわしい、新たな素材として誕生したというわけだ。そんな木糸を利用して、中高生が手軽に身に着けられる何かを作れないだろうか・・・そこで考えたものが、ハンカチだった。新型コロナウイルスが深刻化し手洗いの重要性が高まる今、ハンカチは私たちの生活に欠かせないもの。木糸ハンカチはほのかに木の香りがしては吸収性もよい。また色味からも森林を近くに感じることができる。グリーンな消費を自分から実践できる最高のチャンスだ!国産材の木糸ハンカチを使うことで森を身近に感じるだけでなく、日本の森林事情についてもっと考え、もっと興味を持ってもらいたい・・・!!そして、いつかハンカチを始めとして木糸で作られたものを身に着けることが「ニューノーマル」となり、まさに自然を身にまとい、森と共に生きる文化を作りたい!!この先の未来を担う私たちZ世代がそれを実現することは、地球全体を豊かにする大きな一歩となり、水谷さまや先生たち、保護者からの教えや願いをきっと次の世代に繋いでいけるはずだ。木糸ハンカチに対する部員たちの想いに耳を傾ける部員たちはそれぞれこんな想いを持っている・・・「私は中学校2年生の時に、セネガルの海岸でゴミ拾いのボランティアを行った。そこでゴミ袋が足りなくなるほどのプラスチックごみを見た。無責任な個人の行動が重なれば、いずれ個人の範囲を超えて世界的な環境問題を起こしうるという事を痛感した。逆に、一人一人が環境を意識して、責任を持って行動したら、現状は大きく改善されていくと同時に思った。このプロジェクトを通して、環境保全を身近に感じてもらい、多くの中高生に環境問題は他人事ではなく、今世界規模で向き合わなければならない問題であるという事を意識してもらえるキッカケにしたい!」「地元活性化の活動として山梨県小菅村に訪問した際に、日本の森林が余ってしまっているという事実を初めて知った。小菅村では村役場や中央公民館に小菅産の木材を使うなど森林がとても多く、すごく居心地が良く感じた。木糸ハンカチのように木を身近に感じ、今より更に、リラックスするという目的で日本の森林が使われるようになるといいなと思った。」「近年は効率的な生産を目的に環境に害を及ぼしながら生産された商品が大半を占め始めている。そんな中、一番大事なのは一人一人が消費者として責任を持って環境に優しいものを選択することだと思う。私たちの木糸ハンカチも子どもや中高生たちにとって、エシカルな購入について考える第一歩となるような商品にしたい。」◆木糸ハンカチが届ける未来しかし木糸ハンカチは始まりにすぎない。ここから中高生が森林をジブンゴトとして捉えてもらえるようなセミナーの開催、小学校・幼稚園で木のおもちゃを使用したワークショップの実施など今後の活動にも想いを巡らせている。森林保全に取り組むためには、まず森林が抱えている問題を知り、理解し、共感することが大事である。木糸ハンカチを通して森林に興味を持ってもらえたら、セミナーを開催することで私たちを含めた中高生が森林に関する知識を深められるようにしたい。水谷さまに勉強会の講師をしていただいた際、部員同士で「中高生である私たちが森林、そして環境のためにできることは何なのか」ということについて話し合った。この話し合いではたくさんのアイデアが出て、斬新な体験となった。このようなディスカッションを日本全国の中高生と実施していきたい。また、森林を身近に感じる効果的な方法は小さいころから木に触れ合うことだと思う。ワークショップを通して私たちの日常生活と森林を少しでも近づけたい。ビジョンは、「中高生があたりまえに参画できる社会を実現すること」環境を意識し始めたバックグランドはそれぞれ異なる。だが、環境を守りたいという思いはひとつ。今ここから木糸ハンカチに想いを託した私たちの物語が始まる。私たちは、「中高生があたりまえに参画できる社会を実現する」をビジョンに活動している。森林を守り、私たちが目指す社会を自分たちの手で創っていきたい。このプロジェクトが、そのための一歩となるように。―――――――――――――「木の糸で作るハンカチ」制作プロジェクトがスタート!木糸ハンカチプロジェクトページはこちら2021年2月16日より、東京学芸大学附属国際中等教育学校ソーシャルアクションチームによる、「木糸ハンカチ」プロジェクトがスタートしました。私たちのストーリーを通じ、共感をしていただけた方は、ぜひプロジェクトのページもご覧ください。また、世界中の多くの人へ共感を広めたいと思っていただけたなら、SNS等でのシェアをお願いいたします。