「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクト

「世界のみんながしあわせになるコーヒー」プロジェクト

農家を重労働から解放!ローテク機材を贈ってフェアトレードのコーヒー作りを支えよう!

――朝、お湯を沸かし、コーヒーを淹れて、芳醇な香りに目を醒ます。そのひと時は、とても豊かな時間だと思います。コーヒーは、ブラジルやコロンビアなどが有名な生産地ですが、いま、フィリピンのコーディリエラ地方で暮らす山岳民族たちが、新たなブランドとなるコーヒーを作っていることを、ご存知でしょうか。コーディリエラは、世界遺産にも登録された棚田がとても美しい地域です。標高2,000mにも及ぶ山々には、先祖代々受け継がれてきた文化を守り、豊かな自然とともに山岳民族が暮らしてきました。しかし、グローバル化の波とともに、民族の暮らしも変わっていきました。お金を得るために木を切り倒して畑を作る人が増え、それにより土砂崩れや洪水などの環境問題につながってしまったのです。けれど、いくら環境を守るために「木を切らないで」と伝えたとしても、暮らしに必要なものを購入するためにお金は必要です。病気になった時や、子供たちの教育のためにもお金を稼がなくてはなりません。普段、私たちは「便利」にあふれた暮らしを甘受している一方で、山岳民族の彼らには木を倒さずに便利な生活を諦めてほしい、というのは「フェア」ではありませんよね。そうした状況を改善しようと立ち上がった環境NGOがあります。それが、「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(以下、CGN)」。ここからは、CGNの活動を通し、遠いフィリピンの地で始まったコーヒーの物語をご紹介します。2001年、CGNははげ山を元の森に戻すため、植林を中心とした活動を開始しました。ところがフィリピンでは木の伐採と、材木の販売には厳しい規制が設けられていることもあり、森からの収入の見込みはなかなか立ちません。そのため、木を植えたところで民族の方々にとって実質的な暮らしの支えにはならず、山火事を装って森が燃やされ、畑がつくられる事態が多発していました。そこで、CGNでは「アグロフォレストリー」という、森林農法を人々へ伝えることにしたのです。アグロフォレストリーとは、「農業(アグリカルチャー / Agriculture)」と「林業(フォレストリー / Forestry)」とを合わせた造語。同じ土地で樹木と農作物を組み合わせて育てるシステムです。この手法を取り入れれば、木を切り倒さずに、残された自然環境を活用しながら生計を立てることが可能になるのです。よみがえらせたい森に、収入つながるどんな作物が育つのか? CGNは現地の人々と共に試行錯誤の日々を繰り返し、一つの答えにたどり着きました。それが、「アラビカ・コーヒー」でした。コーヒー栽培と聞くと、大規模農園でコーヒー栽培され、大企業によりコーヒー豆が買い取られる図をイメージする人も多いのではないでしょうか。ところがコーディリエラでは、山岳民族の農家が一軒一軒、先祖から受け継いできた小さな土地で自分たちの手で栽培しているのです。そして、すべての作業は家族で協力し合って行っています。コーヒーノキを植え、実がみのるまでには3~5年かかります。そしてようやく赤く色づいた実「チェリー」を、農家が一粒ずつ手で摘み取っていきます。皆さんが良く知るコーヒーの豆は、このチェリーの中に隠れています。それを取り出すのに、大きな農園では機械が使われています。しかし、コーディリエラの小さな農家にはそうした機材がほとんどありません。臼と杵という、昔ながらの方法で豆を取り出すのです。さらに、豆は「パーチメント」と呼ばれる硬い殻で覆われており、これを除去する必要があるのですが、「脱穀機(ハラー)」がないため、これも臼と杵を使った手作業で取らなければなりません。人力では均等に力を加えられないため、コーヒー豆がつぶれてしまったり、品質にばらつきが発生します。また、手作業では非常に労力がかかるため、中にはアグロフォレストリーによるコーヒー栽培を諦めてしまい、森を焼き、畑を作る方へ戻ろうとする人も出て来てしまっているのです。「農家の人たちにコーヒー作りを諦めてほしくない」CGN設立メンバーの一人、反町 眞理子(そりまち・まりこ)さんは、「農家の人たちには、愛情と誇りを持って、コーヒー作りを続けてほしい」という想いがあります。コーヒー作りを諦めてしまえば、森の木々を失い、災害が起きやすくなり、結果としてその土地に暮らす人たちみんなの暮らしに、大きな影響を及ぼしてしまう可能性があるからです。そこで、農家が持続的にコーヒー栽培を続けられる環境が必要だと考えた反町さんたちは、クラウドファンディングサービスSPINの協力を仰ぎ、コーディリエラのコーヒー農家さんに、コーヒーチェリーの加工に使う機械を届けるこのプロジェクトを始めることにしました。小さなマニュアルの機械ですが、農家の重労働はこの機械によって大きく軽減します。そして、コーヒーづくりの仕上げにきちんとコーヒー豆を乾燥させるためのハウスづくりのサポートもしていきます。まずはこの二つを目標に掲げ、ゆくゆくは、村ごとに小さなコミュニティベースの「マイクロミル(小さなコーヒー加工所)」を作り、村の農家さんたちが協力してコーヒーを精製し、品質にばらつきが出ないようにしていく計画を練っています。村のコーヒー農家の人たちが自分たちの手で品質の高いコーヒー豆をコミュニティ内で生産し、そこから十分な収入を得ることができ、村の自然を守りながら自立した暮らしを営めるようになること。それが、このプロジェクトの描く未来です。その土地に根を張り、生きる人々が、自分たちのやり方でサステナブルに、豊かに生きていく――それが何よりも大切なことなのです。しかし、このプロジェクトを成功に導くには、多くの人の協力が必要です。そこで立ち上がったのが、フェアトレードショップのシサム工房でした。みんなが幸せになれるコーヒーを届けたいシサム工房は2011年からコーディリエラのコーヒーの輸入販売を始めました。1999年、京都でオープンしたシサム工房で、雑貨や服飾品を中心としたオリジナルのフェアトレード商品を扱っていましたが、当時はまだオリジナル食品を扱っていませんでした。「フェアトレード」の象徴とも言えるコーヒー市場は競争が激しく、参入することは容易ではなかったこともあります。そんな中、シサム工房代表の水野 泰平(みずの・たいへい)さんは仕入れのために訪れたフィリピンの地で、反町さんと出会いました。出会った当初はまだ、コーヒーを扱うイメージを持っていなかった水野さん。数年後、実際に現地のコーヒー農家の村に訪れたことで、変化が起きました。臼と杵でコーヒーを精製している農家と、彼らを支えるCGNの人々との縁がつながり、それはやがて、一杯のコーヒーの湯気から立ち上る物語として、水野さんに届いたのです。――コーヒーを味わったとき、作り手の幸せにつながることも含めて美味しいと感じられるように、コーヒーの楽しみ方を広げたい。そんな想いから、シサム工房でのコーヒーの取り扱いが始まりました。コーディリエラ産のコーヒーには、まだフェアトレード認証マークがつけられていません。小規模農家が認証を得るには、なかなか高いハードルを乗り越える必要があったのです。しかし、水野さんは認証の有無によって、一般的なフェアトレードコーヒーと、コーディリエラコーヒーとに違いはないと言います。「認証は安心・安全を保証するためのマーク。例え認証がなかったとしても、味に差はありません。大切なのは、作られた背景をしっかりと物語として伝えることだと私たちは考えています。そしてその物語を消費者がどう捉えるかに鍵があるのです」そして、水野さんはこうも述べています。「もちろん、物語だけでは、商品としては成り立ちません。美味しいことが、前提条件ですよ」と。生産者側が品質を高めるうえで抱えている問題にも耳を傾け、CGNへの協力を惜しみません。その結果、品質も少しずつ向上し、コーディリエラコーヒーを購入したお客さんからは「コーヒー苦手だけど、これはとってもフルーティーで飲みやすい」という声や、「後味が良く、唯一ブラックでも飲めるコーヒー」という評価を得ています。リピート率も高く、大きな手応えを感じられます。これは、地道に自らの手でコーヒーづくりをしてきた農家の努力や、現地のハブとなって活動してきた反町さんらCGNの熱意、そして農家やCGNのストーリーを丁寧にお客さんへ伝えてきたシサム工房等の協力とが、物語として丁寧に紡がれてきた証とも言えるでしょう。2016年には、作り手、売り手、買い手、社会、地球環境の5方良しを目指したコーヒーづくりが評価され、ソーシャルプロダクツアワード2016【優秀賞】を受賞。そして今年の7月~8月頃には、フェアトレードの認証を受けるため、実際に現地での監査が行われる予定となっています。私たち消費者の選択こそが、フェアを生み出す近年、“サステナブル” や “SDGs”、“エシカル” といった言葉をよく耳にするようになりました。利益重視の経済や、大量消費社会への見直しが図られ、地球環境や資源、子どもたちの未来を第一に考えるアクションに対する注目が集まっています。しかし、いかに世の中をより良くしようとしても、生産・販売等の方法を変えるだけでは、実現は難しい。良くも悪くも、消費者のニーズに合わせて市場が動くため、消費者の存在こそが、これからの未来のカギを握っているのです。だからこそ、私たち消費者は、物事の見方をちょっとだけでも変えて、何を買うべきか、選択する必要があります。大前提として、選ぶものが本当にほしい!と思える商品であることが大切ですが、買い物を通じて作り手の未来や、環境を支えられたなら、将来的に自分自身や、自分が大切にする人たちの豊かな暮らしのために還ってくるはずなのです。そして、そのより良い循環を生むためには、自分が選ぶ商品がどのように作られたのか、その背景を知るところから始まります。知ることこそが、“フェア” なトレードの第一歩。フェアなことがどんどん “シェア” されれば、物事はどんどん豊かになっていくはずです。このプロジェクトもそう。誰が、どこで、どんな想いで作られたものなのか。それがどんな人たちの手を経て、あなたの食卓まで旅してきたのか?――その物語を知ることで、コーヒーに付加価値を与え、コーヒーを頂く楽しみや嬉しさが増すはずです。コーヒーを作る農家の努力は、ただの労働力ではありません。地球をより良くする一歩を担ってくれているのです。日本は、資本主義の恩恵を受けてきた国の一つであるからこそ、彼らの物語をまず知ってほしい。そして彼らが届けてくれるコーヒーを通じ、農家一人ひとりが丹精を込めて作ってくれた、その陽に焼けた顔を思い浮かべてほしいのです。そうしていただく1杯の香りは、確実に昨日までのそれとは異なることに、間違いありません。きっと、いつもより何倍もおいしいと感じるでしょう。そして、物語を知っていただけたなら、ぜひ、このプロジェクトを通し、一緒にコーヒーづくりに参加していただきたいと願っています。あなたのサポートが、コーヒー農家の重労働を軽減し、おいしいコーヒーづくりへの大きな一歩になります。そして、それが、山岳地方の貴重な森を守ることにもつながるのです。初めは小さな力かもしれませんが、共感の輪が広がっていけば、大きなムーブメントになるはずです。1杯の向こう側に広がる森……そんなコーヒー作りに参加していただけたらと思います。『SPIN』のプロジェクトページはこちら============================■ シサム工房1999年4月25日に京都の郊外で小さなフェアトレードショップとして誕生。学生時代に人権や貧困の問題と出会い、シサム工房の代表・水野 泰平(みずの・たいへい)が、社会経済的に立場の弱い人たちとよりいい形でつながって生きていきたい、と強い想いを持ったのが始まり。創業以来、オリジナルの商品開発を行い、商品の質やデザイン、提案する空間にこだわりながら、一貫してフェアトレードにチャリティではなく、事業として取り組む。現在、京都、大阪、神戸、吉祥寺に直営8店舗を展開している他、全国300の小売店を通して、コーヒーや、アパレル品、雑貨、インテリア商品などを販売している。* シサムとは、アイヌ語で「よき隣人」 を意味する言葉。■ コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network )2001年フィリピン共和国ルソン島北部山岳地方の中心都市・バギオ市で、在住の日本人・反町 眞理子(そりまち・まりこ)と日本人1名、そして3人のフィリピン人によって設立。ルソン島北部山岳地方の環境保全とそこに暮らす先住民族の貧困削減・生計向上を主な目的とし、森林再生と水源涵養のための植樹プロジェクト、先住民族の伝統文化をベースとしたアートを活用した環境教育プログラム、持続可能な地域資源を活かした適正技術によるエネルギー事業、アグロフォレストリー事業などを行ってきた。2011年から2018年まで継続したフィリピン企業のCSRによる森林再生事業では毎年タバコ栽培農家とともに毎年100万本の植樹を達成。アグロフォレストリー事業では山岳部の気候や土壌に適したアラビカコーヒーの栽培を推進し、今までに100万本近い(うちコーヒーは16万本強)植樹を山岳地方各地で行ってきた。(文・SPIN Writer)